箸にも棒にもかからないものを作れ
この公案に若手実力派5名が答えました
井上 竣愽
●Toshihro Inoue
「将棋盤 銘 邪馬薹國造圖 明日香板蓋宮大極殿」「将棋駒 守田長録書 銘 青海波松」/W360×L330×H330mm/ 陶土 板づくり 象嵌/800,000円(税別)
①今回、早乙女哲哉氏に与えられた作品テーマ「箸にも棒にもかからないもの」について、自分なりにどう解釈しましたか? また、でき上がったものについて、ご自身ではどう評価なさいますか?
与えられたテーマについては、普段から私自身の制作において似たような解釈で制作をしているので、いつも通りに作らせてもらおうと思った次第です。現在の陶芸の主流にも則さず、碁盤の職人としても亜流であり、ただ自己満足の中で作品を作ることが「箸にも棒にもかからない」というメッセージを持ち合わせているかと思います。
また私は作品を外部記憶装置と見なしている節があり、そういった意味でも他者にとってどうでもいい「箸にも棒にもかからない」ということに繋がるかと考えています。
②工芸家という職業を選んで「よかったなあ」と思うのは、どういう瞬間ですか?
よかったという感覚で考えたことがなかったので新鮮な質問でした。陶芸という技法で作品を作っていますが、そこで使う技術以外の部分が、制作に関わっていて、ものづくり全般の技術や知識が培われていくことに喜びを感じています。
③工芸家という職業を選んで「失敗したなあ」と思うのは、どういう瞬間ですか?
単純に作家としての収入が世間一般と比べて生活レベルに達することが難しいことです。ものを作る行為と売る行為は私にとって二律背反であり、作ることに専念する自分と売ることに専念する自分という二人がいないと継続できないようです。
④超絶技巧と天才的発想力。選ぶとしたらどちらですか? その理由も教えてください。
どちらかというと天才的発想力でしょうか。天才でも超絶技巧をこなす器用さは身につけられるといいですが……。現時点ではどちらも持ち合わせていませんが、作品作りを続けることで、いずれ作るであろう最高傑作がそのどちらも不可欠なものになると思います。
⑤あなたのいつもの作風を、音楽か、映画か、小説か、詩か、風景か、植物か、動物か、食べ物か、飲み物にたとえてください。
映画が一番例えやすいと思います。作品については物語性を頭の中で繰り広げています。ビジュアルとして目を引く作品は大事ですが、そこに物語があり、始まりと終わりを鑑賞者に補完してもらうことで作品が完結する。彫刻と工芸の作品の違いがここに共通しています。
⑥あなたは結局のところ、誰に向かって作品を作っていますか?
すぐ思いついた相手は家族です。それは自分自身も含めたもので、一番理解してくれない相手で一番気にかけてくれる相手。ハードルが高いような低いような、恐らくそこを基準にものづくりしているようです。
⑦美術品、工芸品、遺宝などで、盗んでも自分の傍らに置きたいものはありますか? それは何ですか?
月岡芳年、河鍋暁斎、ミュシャの絵が最近のブームで、傍において自戒できようにしたいです……。
井上 竣愽
1988年 東京都生まれ
東京芸術大学大学院美術研究科工芸専攻 陶芸領域修士課程修了
展示歴
2014年 第8回藝大アートプラザ大賞展 (東京藝大アートプラザ、準大賞)
2017年 第7回菊池ビエンナーレ展(菊池寛実記念智美術館、入選)
日本橋三越、新宿京王百貨店、京王プラザホテル、ホテル椿山荘東京 など
Web site:TOSHIHIRO INOUE WEB FILE